免疫系を破壊するAIDS(Acquired Immunodeficiency Syndrome)

日本の患者数も2万人を突破

エイズ、クラミジア感染症、性器ヘルペス、膣カンジダ症など性行為を原因として起こる病気をSTD(Sexually Transmitted Disease:性感染症)といいます。

性行為で性器同士が擦りあわさると、粘膜が傷つくことがあります。パートナーのどちらか一方が性感染症になっていると、血液や精液などの体液を通じてパートナーも感染してしまいます。

STDに指定される病気は数多くありますが、先進国、開発途上国を問わずに世界中で蔓延して社会問題化しているのが、AIDS(Acquired Immunodeficiency Syndrome:後天性免疫不全症候群)です。

通常、健康な人は免疫系の働きによって、がんや感染症への感染を防いでいますが、エイズを発病すると、この免疫系の機能が損なわれてしまうため、あらゆる病気に対して無防備になってしまいます。

HIVに感染すると、1週間後あたりに高熱、頭痛、筋肉痛など風邪に近い症状が現れます。これは体が侵入したHIVを撃退しようとする初期の免疫反応ですので、時を置かずして治まります。この間もHIVは免疫細胞を破壊しているのですが、目立った症状はまだ出現しません。

しかし、感染から約10年を経たあたりになると、さまざまな病原体から体を守ってくれる免疫系の機能は弱体化され、免疫不全の状態になるためさまざまな病気にかかります。この段階になるとカリニ肺炎に代表される日和見感染、カポジ肉腫(皮膚がんの一種)などの症状が現れます。この発病した状態をエイズといいます。

UNAIDS(Joint United Nations Programme on HIV and AIDS:国連合同エイズ計画)が公表しているデータによると、全世界のHIV感染者は3,400万人にも達しています。なかでも感染者の数が2,350万人と突出して多く、世界の3分の2を占めるに至っているのがサハラ以南アフリカで、これに次いで南アジア・東南アジアにおける感染者数が400万人となっています。

南アフリカ各国における成人のHIV感染率はスワジランドの26%、南アフリカが17%、ジンバブエで15%と非常に高くなっており、検査機器が整っていない医療機関が多いこともあり、これらの国では手術の際の輸血も命がけとなります。

成人男性のHIV感染率が高いのは、これらの国では売春が盛んで、売春婦のHIV陽性率が高いため(スワジランドで70%、ルワンダで50%など)、感染した男性が家庭に戻り、妻に感染させて家族が崩壊していくのです。

アメリカでは毎年約5万人が新たにHIVに感染しており、現在は120万人ほどの感染者がいます。感染者の75%は自分がHIVに感染していることを知らないとされており、日常生活の中で性行為を介して感染を拡大させているのです。

アメリカでは同性愛者の間にエイズが蔓延しています。これは体の他の部位に比べて肛門の粘膜が薄く傷つきやすいため、コンドームを使用せずにアナルセックスを行うと、互いの血液が混ざりあってパートナーも感染してしまうためです。

では日本における感染の動向はどうなっているのでしょうか。厚生労働省のエイズ動向委員会の調査結果によると2014年末現在で、HIV感染者は7,188人、エイズ患者は15,783人となっており、統計開始以来初めて両者の合計が2万人を超えました。

上記の国や地域に比べると依然として低い数字ですが、油断はできません。というのも日本ではSTDの代表格である性器クラミジア感染症が若い世代の男女を中心として感染者数が急増しているためです。このことは若い人がコンドームを付けずに性行為を行っていることを示しており、HIVもクラミジアと同様に感染が拡がってもなんらおかしくはないためです。

感染・発症のプロセス、検査による早期発見の重要性

治療薬でウイルスの活動を抑制

臨床医学的に分けると、HIVに感染してからエイズを発症するまでのプロセスは以下の4つになります。

急性感染症期…HIVに感染すると、約2週間の潜伏期を経て、血液中に大量のHIVのRNAと抗原が検出されます。一方、一時的にヘルパーT細胞が減少します。

その後、体内で抗体が作られたり、キラーT細胞が活性化されることに伴って、これらの検出が見られなくなります。この間、微熱や頭痛などの風邪に似た症状が現れます。

無症候期…短くて2年、長くて10年以上と個人差はあるものの、外見上は健康な人となんら変わりない生活を送ることができます。しかし、HIVの増幅は続いており、免疫系が働くことによって均衡状態が保たれているに過ぎません。ヘルパーT細胞の数も安定していますが、HIVの増幅で失われていく細胞と新生細胞のバランスが保たれている状態です。

エイズ関連症候群期…頻繁に発熱、下痢などを繰り返すようになり、体重減少も目立ってきます。体内ではヘルパーT細胞の減少が見られ、リンパ節の腫れも併発します。

エイズ期…急性感染症期に見られたような血中のHIVのRNAと抗原が大量に検出され、それに反比例してヘルパーT細胞の急激な減少が見られます。体の抵抗力が著しく低下するため、カリニ肺炎、カンジダ症、結核などの日和見感染、悪性腫瘍、エイズ脳症などの症状が現れます。

エイズは以上のような経過を経て、年月をかけて発症するわけですが、エイズを発症するまでHIV感染に気が付かない人も大勢います。現在は治療薬で体内のウイルスを上手にコントロールできるようになっていますから、エイズを発症する前の段階で治療を開始できれば、エイズを発症することなく寿命を迎えることも十分可能です。そのためにはエイズは勿論、発症でHIV感染率が上昇するクラミジアや梅毒などの性病の検査を医療機関・保健所で定期的に受け、早期発見を心掛けるようにしましょう。

抗HIV薬には、RNAからDNAを作成しようとする逆転写の段階を妨げる「逆転写酵素阻害薬」と、細胞内で複製されたHIVのgagタンパク質を正しいサイズへの切断を妨げる「プロテアーゼ阻害薬」がありますが、治療に際してはこれらの抗HIV薬を「多剤併用療法」で服用すること勧められています。これによりエイズの発症をある程度コントロールすることが可能になり、また新たな治療薬の開発も進んでいることから、以前のように「エイズ=必ず死ぬ病気」というイメージはなくなりつつあります。

20歳代前半に拡がるSTD(性感染症:Sexually Transmitted Disease)

日本の患者数も2万人を突破

これまで見てきたエイズもSTD(性感染症)のひとつですが、HIVに感染した人は、他のSTDにも感染していることは少なくありません。

特に不特定多数の人と性行為を行う人は、その都度、白血球が別の種類の病原体と闘わなければならないので、体の抵抗力は弱まってしまい、そこでSTDに感染してしまうのです。

STDには梅毒、淋病、膣炎、非淋菌性尿道炎、クラミジア感染症、膣トリコモナス、アメーバ赤痢、性器ヘルペス、尖圭コンジローム、膣カンジダ症炎、毛じらみ症など非常に多くの種類があります。

厚生労働省が、全国の泌尿器科、性病科、産婦人科など全国の医療機関に依頼して行っている調査によると、感染者数が最も多いのは男女ともにクラミジア感染症、次いで淋病となっています。近年の傾向として顕著なのは、20歳~24歳の若い世代に感染が拡がっているということです。

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