HIV感染の有無を即日報告できる迅速検査を導入する保健所が増えています
HIVは感染してからエイズを発病するまでの約10年間は、最初の数週間を除いては全く症状がありません(無症候性キャリア)。症状はないものの、体の中ではHIVが増殖を続けており、免疫を破壊し続けています。
本人が感染に気付いていない限り、医療機関を受診することはありませんので、厚生労働省が発表しているHIV感染者の報告者数は現実の数分の1に過ぎないと推定される理由はここにあります。
HIVの感染の有無を知るためには抗体検査を受ける必要があります。HIVに感染して、増殖を始めると、体はそれを排除しようと免疫機能が働いて抗体がつくられます。HIVに対する抗体が陽性であるということは、過去に感染したという事実を示しているのです。HIVに感染して治った人はいませんので、過去の感染=現在の感染という式が成り立ちますので、1回の検査でHIV感染の有無が判定できます。
しかし、無症状なのにどうやって検査を受けるきっかけを掴むのかと思われるかもしれません。HIVの感染機会から4~8週後に50~70%の感染者には発熱や発疹などの風邪に似た症状が現れます。これは体の中で増殖するHIVに対抗して、免疫機能が働く過程で起こります。
通常は1~2週間で症状は消滅しますが、症状が激しかったり、長引いたりする場合は医療機関を受診して、医師がHIV感染の可能性を考慮して検査を行い、感染が判明することがあります。この期間を除くと、冒頭に触れた「無症候性キャリア」の時期に入るため、向こう10年はHIV感染の診断機会を失うことになりかねません。
そのほかにも無症候性キャリアの時期には、HIV感染特有の症状ではないものの、帯状疱疹やSTD(性感染症)を発症することがあります。この両方を併発している場合にはHIVの感染を疑って、検査を受けたほうがよいでしょう。
血液中のHIV抗体を調べる検査は保健所、HIV検査センター、病院で受けることができます。検査には「陽性」の人を見逃さないように感度を高く設定した「スクリーニング検査」と、その結果が本当に「陽性」なのかあるいは「偽陽性」なのかを正確に判断するために行う「確認検査」があります。
多くの受診者の検査が可能な「スクリーニング検査」には検査の迅速が要求され、「確認検査」は時間を要しても正確性が要求されます。従来、正確な検査結果が本人に通知されるまで2週間を要していましたが、受診者が抱え込む精神的な不安が大きいということから、近年は即日報告が可能な迅速検査を実施する保健所も増えています。
HIVの検査は保健所、HIV検査センターで行うものは無記名かつ無料で受けることができるため、年間15万人の方が利用しています。病院で検査を受ける場合には数千円程度の検査費用と初診料がかかります。
検査の結果は必ず受診した本人に対して行われます。本人の了承を得ることなく、勝手に家族やパートナーに知らされることはありませんので安心してください。感染を予防するため、家族やパートナーへの告知は本人が行うのがベストですが、依頼があれば医療従事者が行うことも可能です。